インコの熱中症とは?一年中起こり得るリスク

インコの熱中症は、体温調整機能が限界を超えて体内に熱がこもり、命に関わる危険な状態です。多くの飼い主さんは「熱中症=夏」と考えがちですが、実は春・秋の急激な気温上昇や冬の過度な保温でも発生します。インコは汗をかけない動物のため、人間以上に温度管理が重要になります。
熱中症が起きるメカニズム
インコは汗腺を持たないため、人間のように汗で体温を下げることができません。代わりに以下の方法で体温調整を行っています。
- 口を開けて呼吸を速くする(パンティング)
- 翼を広げて体表面積を増やす
- 水浴びで羽を濡らす
しかし、気温が30度を超えると、これらの方法だけでは体温を下げきれなくなります。特にケージ内の空気が循環せず、湿度も高い状態では、わずか数時間で熱中症に陥ることがあります。体内に熱がこもり続けると、脳や内臓にダメージが及び、最悪の場合は死に至ります。
インコが熱中症になりやすい理由

インコは体が小さく、体重に対する体表面積の割合が大きいため、環境温度の影響を受けやすい動物です。人間が「少し暑いかな」と感じる程度でも、インコにとっては命の危険があるレベルになることがあります。
特に以下の条件が重なると、熱中症のリスクが急激に高まります。
- 直射日光が当たる場所にケージを設置している
- 換気が悪く、空気がこもりやすい部屋
- 湿度が高い状態(60%以上)
- ヒナや高齢のインコ(体温調整能力が弱い)
- 肥満気味のインコ(熱の発散が困難)
また、ケージ内に水入れがない、水が古くて飲めない状態も熱中症を悪化させます。常に新鮮な水を用意しておくことが予防の第一歩です。
夏以外でも熱中症は起こる

熱中症は真夏だけの問題ではありません。以下のような時期にも十分な注意が必要です。
春・秋の急激な気温上昇
5月や9月は、日中の気温が急に25度以上になることがあります。「まだ春だから」「もう秋だから」と油断すると危険です。特に南向きの窓際では直射日光で一気に温度が上がります。
冬の過度な保温によるリスク
意外に思われるかもしれませんが、冬の保温器具の使いすぎで熱中症になるケースも少なくありません。特にヒーターとアクリルケースを併用している場合、ケージ内が30度を超えてしまうことがあります。保温は重要ですが、温めすぎも命に関わります。
冬の保温管理については、インコの保温対策完全ガイドで詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
インコの熱中症の初期症状と重症度の見分け方

熱中症は発見が早ければ早いほど、助かる確率が高くなります。インコの様子をこまめに観察し、初期症状の段階で気づくことが何より重要です。ここでは、症状を初期・中等症・重症の3段階に分けて解説します。
初期症状(この段階で気づけば助かる確率が高い)
初期症状は見逃しやすいものが多いため、特に注意深く観察してください。以下のような兆候が見られたら、すぐに対処を始めましょう。
- 口を開けて呼吸が速くなる(パンティング)
- 翼を広げて体から離すようにしている
- 止まり木の下や床に降りてじっとしている
- 水を普段より多く飲む
- 羽を膨らませる・または羽をペタッと体に密着させる
この段階では、まだインコは自力で水を飲んだり、止まり木に止まったりできます。すぐに涼しい場所に移動させ、適切な温度管理を行えば回復する可能性が高いです。
中等症の症状(すぐに対処が必要)
初期症状を見逃すと、数時間で中等症へと進行します。この段階になると、インコの体には明らかな異変が現れます。
- よろめいてバランスを崩す
- 呼吸が非常に速く、苦しそう
- 目を閉じたまま、反応が鈍い
- くちばしや足が普段より赤くなっている
- 触っても逃げない、抵抗しない
この段階では、家庭での応急処置と同時に、すぐに動物病院へ連絡してください。移動中も冷却を続け、できるだけ早く獣医師の診察を受けることが必要です。
重症の症状(命に関わる状態)
重症になると、インコの命は危険な状態です。一刻を争う緊急事態として対処してください。
- ケージの床に倒れて動かない
- けいれんを起こしている
- 呼吸が浅く、ほとんど胸が動いていない
- 瞳孔が開いたまま、または目を開けたまま反応がない
- 触っても全く反応しない
この状態では、家庭での応急処置だけでは救命できない可能性が高く、すぐに救急対応が可能な動物病院へ搬送する必要があります。移動中も冷却を続けますが、急激に冷やしすぎると逆効果になるため、後述する応急処置の手順を守ってください。
インコが熱中症になった時の応急処置

熱中症を発見したら、一刻も早く体温を下げる必要があります。ただし、急激に冷やすとインコの体に負担がかかり、ショック状態を引き起こす危険があります。正しい手順で、段階的に冷却することが重要です。
応急処置の手順
熱中症の応急処置は、時間との勝負です。以下の手順を速やかに、しかし落ち着いて実行してください。
STEP1:涼しい場所へ移動
ケージごと、またはインコを優しく手で包んで、エアコンの効いた涼しい部屋(25度以下)に移動させます。直射日光が当たる場所からは、すぐに離れてください。ただし、エアコンの冷風を直接当てるのは避けましょう。
STEP2:体を冷やす(正しい冷却方法)
タオルやガーゼを常温の水(冷たすぎない水道水)で濡らし、軽く絞ってからインコの体に優しく当てます。特に翼の付け根や足、首の後ろを冷やすと効果的です。氷や保冷剤を直接当てるのは絶対にNGです。5~10分ごとにタオルを交換し、インコの反応を見ながら冷却を続けます。
STEP3:水分補給
インコが自力で水を飲めるようなら、新鮮な水を与えます。飲めない場合は、スポイトやシリンジで少量ずつ、くちばしの横から水を垂らします。小鳥用の経口補水液があれば与えます。人間用のスポーツドリンクは糖分・塩分が多すぎるため避けてください。意識がない場合は、無理に水分補給せず、すぐに病院へ。
STEP4:動物病院へ連絡・搬送
応急処置と同時に、動物病院へ電話で状況を伝え、すぐに搬送できるか確認します。移動中もタオルでの冷却を続けますが、車内のエアコンは25度程度に設定し、冷やしすぎないよう注意してください。キャリーケースには保冷剤をタオルで包んで入れ、インコが直接触れないようにします。
応急処置を行っても、熱中症は内臓にダメージを残す可能性があるため、必ず獣医師の診察を受けてください。一見回復したように見えても、数時間後に容態が急変することがあります。
やってはいけないNG行動

熱中症の応急処置では、善意からの行動が逆効果になることがあります。以下の行為は絶対に避けてください。
扇風機の風をインコに直接当てる
インコは汗をかかないため、扇風機の風を直接体に当てても体温を下げる効果がほとんどありません。逆に風で体力を消耗し、状態を悪化させる可能性があります。扇風機を使う場合は、部屋全体の空気を循環させる目的で、インコに直接当たらない位置に設置してください。
氷水や氷で急激に冷やす
氷や氷水で急冷すると、体表の血管が収縮して逆に体内の熱が逃げにくくなります。また、体温が急激に下がりすぎてショック状態になる危険もあります。必ず常温の水か、冷水程度にとどめてください。
意識がないのに無理に水を飲ませる
意識がないインコに無理に水を飲ませると、気管に水が入って窒息や誤嚥性肺炎を起こす危険があります。意識がない場合は、すぐに病院へ搬送してください。
「様子を見よう」と病院受診を先延ばしにする
熱中症は時間が経つほど重症化します。「少し元気になったから大丈夫」と判断せず、必ず獣医師の診察を受けてください。内臓のダメージは外見からは分かりません。
インコの熱中症予防対策【エアコン管理が基本】

熱中症は予防が何より重要です。一度発症すると、たとえ回復しても内臓にダメージが残る可能性があります。エアコンを使った適切な温度管理が、最も確実で効果的な予防法です。
なお、品種によって適温は若干異なります。セキセイインコの温度管理についてはセキセイインコの温度管理と保温方法、オカメインコについてはオカメインコの温度管理と保温方法で詳しく解説しています。
エアコン設定の具体的な方法
エアコンを使った温度管理では、以下のポイントを守ってください。
設定温度の目安
夏場はエアコンを25~27度に設定するのが理想的です。人間が「少し涼しいかな」と感じる程度が、インコにとっては快適な温度です。28度を超えると熱中症のリスクが高まるため、特に留守番時は27度以下をキープしましょう。
冷風の直接当てはNG
エアコンの冷風を直接ケージに当てると、インコが体調を崩す原因になります。ケージはエアコンの風が直接当たらない場所に設置し、部屋全体の温度を下げるようにしてください。サーキュレーターを併用して空気を循環させると、より効果的です。
除湿運転の活用
湿度が高いと、インコは体温を下げにくくなります。梅雨時期や夏場は、エアコンの除湿運転も活用しましょう。湿度は40~60%程度が理想です。ただし、除湿しすぎると羽や皮膚が乾燥するため、湿度計で確認しながら調整してください。
留守番時の熱中症対策【最も危険なシーン】

インコの熱中症で最も危険なのは、飼い主さんが不在の間に発症するケースです。朝は涼しくても日中に気温が急上昇し、異変に気づけないまま手遅れになることがあります。
留守番時の熱中症対策は以下のとおりです。
- エアコンを25~27度でつけっぱなしにする(タイマー設定は予想外の気温変化に対応できないため危険)
- 水入れを複数設置(1つがこぼれても大丈夫なように)
- 停電に備えて保冷剤を冷凍庫に常備
- ペットカメラで温度を監視
「電気代が心配」という声もありますが、熱中症で動物病院にかかれば、検査や治療で数万円かかることもあります。インコの命と健康には代えられません。
エアコンなしでの熱中症対策【応急的な方法と限界】

「エアコンが壊れている」「賃貸でエアコンがない」「電気代が厳しい」など、さまざまな理由でエアコンを使えない方もいるでしょう。結論から言うと、エアコンなしでの熱中症対策は気温28度以下の日には有効ですが、30度を超える猛暑日や長時間の留守番時には限界があります。以下の方法は、あくまで「エアコンが使えない緊急時の応急策」または「エアコンと併用してさらに快適にする補助策」として活用してください。
保冷剤・凍らせたペットボトルの使い方
エアコンがない場合の応急的な対策として、保冷剤や凍らせたペットボトルが有効です。
ケージ上に設置する方法
保冷剤やペットボトル(500ml~1L)を凍らせ、必ずタオルで2~3重に包んでからケージの上に置きます。冷気は下に流れるため、ケージ内の温度を2~4度程度下げることができます。
持続時間と交換頻度
保冷剤の効果は、室温や大きさにもよりますが、おおむね2~4時間程度です。4時間以上の外出時には、途中で効果が切れてしまうため使えません。在宅時にこまめに交換できる場合のみ有効な方法です。
タオルで包む理由
保冷剤を直接ケージに触れさせると、結露した水滴がケージ内に垂れたり、インコが冷たい部分に触れて体調を崩したりする危険があります。必ずタオルで包み、水滴が落ちないようにしてください。
扇風機との併用方法
扇風機だけではインコの体温は下がりませんが、保冷剤と併用し、部屋全体の空気を循環させることで室温を下げる効果があります。ただし、使い方を間違えると逆効果になるため、以下の点に注意してください。
直接当てはNG
扇風機の風をインコに直接当てると、羽が乱れてストレスになるだけでなく、体力を消耗させます。扇風機は部屋全体の空気を循環させる目的で使い、ケージには直接当てないようにしてください。
サーキュレーターの活用
扇風機よりもサーキュレーターの方が、空気の循環には適しています。天井に向けて風を送り、部屋全体の空気をかき混ぜることで、温度のムラをなくします。
遮熱カーテン・すだれの活用
直射日光を遮ることは、熱中症予防に非常に効果的です。
- 遮熱カーテンで窓からの熱を遮断
- すだれやグリーンカーテンで窓の外側から日差しをカット
- 朝晩の涼しい時間帯に窓を開けて換気
ただし、窓を開ける場合は、インコが脱走しないよう十分注意してください。網戸だけでは不十分です。
なお、夏場に鳥かごカバーを使う場合、熱中症のリスクを高めないように夏用の薄手のものにしてください。鳥かごカバーの正しい使い方については鳥かごカバーは保温に効果ある?で詳しく解説しています。
それでもエアコンが最善の理由

保冷剤や扇風機は、あくまで「応急的な対策」です。30度を超える猛暑日や、長時間の留守番時には、これらの方法では熱中症を防ぎきれません。
もしエアコンが故障している場合は、修理や買い替えを優先してください。賃貸でエアコンがない場合は、ポータブルクーラーやスポットクーラーも選択肢になります。インコの命と健康には代えられません。
なお、夏場の暑さ対策とは逆に、冬場はアクリルケースが保温効果を高める有効な手段となります。詳しくはアクリルケースを使った保温方法をご覧ください。
ケージ設置場所と熱中症リスク

ケージを置く場所によって、熱中症のリスクは大きく変わります。一度設置したら移動が面倒だからと、夏場も同じ場所に置いておくのは危険です。季節に応じて、最適な場所に移動させましょう。
直射日光は絶対NG
直射日光が当たる場所にケージを置くと、わずか30分でケージ内の温度が10度以上上昇することがあります。特に以下のような場所は避けてください。
- 窓際(レースカーテン越しでも日光は強い)
- ベランダや屋外(論外)
- 南向きの部屋の窓側
「朝だけ少し日が当たる程度なら大丈夫」と思うかもしれませんが、季節によって太陽の角度が変わるため、春や秋は予想外に日が当たることがあります。夏場は、できるだけ北向きの部屋か、窓から離れた場所にケージを移動させましょう。
窓際・南向きの部屋の危険性
南向きの部屋は日当たりが良く、冬場は暖かくて快適ですが、夏場は室温が急上昇します。特に午後1時~3時頃は、エアコンをつけていても窓際だけ温度が高くなることがあります。
もし南向きの部屋にケージを置かざるを得ない場合は、以下の対策を併用してください。
- 遮熱カーテンやブラインドで日光を遮る
- ケージの近くに温度計を設置して常時監視
- サーキュレーターで空気を循環させる
車内の温度上昇リスク
動物病院への移動や引っ越しなど、やむを得ずインコを車に乗せることがあるかもしれません。夏場の車内は、エアコンを切るとわずか15分で50度を超えることもあります。
車内でインコを熱中症から守るには、以下の点に注意してください。
- エアコンは常につけておく(設定温度25度以下)
- キャリーケースは直射日光が当たらない場所に置く
- 保冷剤をタオルで包んでキャリー内に入れる
- 移動時間は最短ルートで
「ちょっとコンビニに寄るだけだから」とインコを車内に残すのは、絶対にやめてください。夏場の車内は、エアコンを切った瞬間から急激に温度が上がります。
また、夏場にビニールカバーをケージにかけると、熱がこもって酸欠や熱中症のリスクが高まります。ビニールカバーの危険性についてはインコのビニールカバーの危険性で詳しく解説しています。
よくある質問

インコの熱中症は予防が何より重要【総括】

熱中症は、適切な温度管理を行えば確実に予防できる病気です。しかし、一度発症すると、たとえ命が助かっても内臓にダメージが残る可能性があります。だからこそ、予防こそが最も重要な対策なのです。
エアコンの電気代をケチって熱中症になり、数万円の治療費がかかった上にインコを苦しめるのは、本末転倒です。夏場はエアコンをつけっぱなしにする、直射日光を避ける、新鮮な水を用意する、この3つの基本を守るだけで、熱中症のリスクは大幅に下がります。
また、熱中症は夏だけの問題ではありません。春・秋の急激な気温上昇や、冬の過度な保温にも注意が必要です。一年を通して、ケージ内の温度を適切に保つことを心がけてください。
もしエアコンが使えない状況でも、保冷剤や遮熱カーテンなどの応急策を組み合わせることで、ある程度のリスクは減らせます。ただし、それらはあくまで補助的な手段です。インコの命と健康を守るためには、やはりエアコンでの温度管理が最も確実で安全な方法であることを忘れないでください。
インコは家族の一員です。暑さで苦しむ姿を見ることがないよう、今日からできる対策を始めましょう。
参考文献・出典
本記事は、以下の信頼できる情報源を参考に作成しました。正確性と信頼性を確保するため、公式情報、実体験、および専門家の知見を組み合わせています。
学術的根拠
- 鳥類の体温調節機能に関する研究
- 熱中症の病態生理学的メカニズム
- 気象庁:季節別平均気温データ
獣医学的知見
- 鳥類専門獣医師による熱中症診療ガイドライン
- インコの熱中症に関する臨床データ
飼育経験者の実体験
- インコ飼育者コミュニティ:熱中症対策の実践報告
- 当サイト運営者による30年以上の飼育経験
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※本記事の情報は2025年11月時点のものです。熱中症対策方法や器具の仕様は変更される可能性がありますので、使用前にメーカーの最新情報をご確認ください。
記事監修者情報
名前: 山木
経歴: フィンチ・インコ・オウム・家禽の飼育経験を持つ、飼い鳥歴30年以上の愛鳥家。オカメインコブリーダー。愛玩動物飼養管理士。現在はセキセイインコとオカメインコを中心とした小型~中型インコ専門サイト「ハッピーインコライフ」を運営。科学的根拠と愛情に基づいた実体験を発信し、一羽でも多くのインコとその飼い主が幸せな毎日を送れるようサポートします。